「私の家では何も起こらない」恩田陸著 感想

さて、恩田陸である。
恩田陸は、あくまで個人的な好みではあるが、アタリハズレが激しい作家である。「六番目の小夜子」「光の帝国」「MAZE」「ネクロポリス」「ねじの回転」「夜のピクニック」みたいな傑作があるかと思えば、少々ハズレかなと思う系統のものある。
例えば、最初はすごくよかったのに後半でガタガタになってしまった「夜の底は柔らかな幻」や、濃密な人間関係のあれこれや過剰なほどの少女趣味が前面に出てしまってバランスが今一つ悪かった作品群、「まひるの月を追いかけて」のように少し持ち重りのする作品もある等がそうである。
もちろん、くどいようであるが、それらについては当然個人的な好みであり、むしろ後半で挙げられた作品や「ロミオとロミオは永遠に」のような作品が好みだという人もいるかとは思うので、その場合はお許し願いたい。

 

という前置きの上で、本書「私の家には何も起きない」は、評価に迷うところである。
ざっくりと説明すると、とある一軒の洋館。イメージとしてはイギリスの古い小さな洋館。そこで繰り返される悲劇、怪異譚を連作小説としたのが本書となり、さまざまな登場人物がその洋館で起きた事件の当事者、被害者、関係者として登場しながら各自の視点で物語を綴っている。手法としてしはオーソドックスな形の小説である。

と同時に、語り手によって同じ事件を様々な角度から見たという単純なこことではなく、作品によって、時系列は過去のさまざまな時点に分岐するし、ちょっとした仕掛けで読者にミスリードを促す部分があり、そのあたりでは技巧を凝らしたものにもなっている。

 

そして、評価が難しいと書いたのは、そうした技巧的な部分の狙いはわかるのだが、その結果、これはホラーなのかそうでないのか、怖がらせたいのかそうでないのか、そのあたりが曖昧でとりとめがなく終わってしまったような感じを強く受けるからである。

数年前に話題になり去年映画化された小野不由美の「残穢」や、小林泰三らホラー作家のようなわかりやすい怖さ・続々するような怖さがあまりない。むしろあとがきでもチラリと出てくるがアダムスファミリー的なちょっとコミカルな部分がある。残酷は残酷で、あっけなく人は死ぬし、日本的な幽霊と違って土俗の名状しがたいものなどの描写もあり、そのあたりが少し微妙に感じた。

 

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私の家では何も起こらない (文庫ダ・ヴィンチ)