僕の席でスヤスヤ寝てる貴方へ

あなたはどうして僕の席でスヤスヤ寝ているんだろう。

そこは、僕の席だ。

一瞬勘違いしたかと思ったけれど、ここは間違いなく僕の席だ。

なのに、どうしてあなたはそんなに無防備に眠り込んでしまっているのだろう。

僕はなんて言葉をかけたらいいのかわからなくて、立ち尽くすしかない。周囲の物珍しい視線を受けても、曖昧な笑みで返す他にやりようがない。

「起きて」

最初はためらいがちに、やがて肩を叩いてみたが、なんの反応もない。

死んでる?

まさかね。しばしつついてみると、少し動いた。本当に、ただのしかばねのような熟睡ぶりだけれど、生きているのがわかって、少しホッとした。

もしあなたが本当に死んでいたら、どこからともなく警察がやって来て「どうして、この人は君の席で死んでいるのか」と、覚せい剤で逮捕されたASKAにするより強く尋問するだろう。

関係も何も、あなたのことなんて全く知らないと言うのに。

 

しかし困った。

僕に残された時間は僅かしかないのだ。

ひょっとしたら、貴方にはたっぷりと時間があるのかも知れないけれど、僕には僅かしか時間がないのだ。

たった、38分。

それが僕に与えられた時間の全てなのだから。

19時44分発の、さくら。

新幹線で岡山から新神戸まで、わずか38分。その為に僕は指定席を買ったのだけれど、どうやらあなたを起こし切る前に着いてしまいそうだ。

声をかけた車掌さんは、急ぎの用があるのか要件を詳しく聞く隙もあらば、そのまま後ろの車両へ行ってしまった。

万事休す。

やれやれ。

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