日本がアメリカを統治する世界でのミステリー 『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』ピーター・トライアス著

『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』ピーター・トライアス著

第二次世界大戦で、日本とドイツが勝利したとしたら、というIFの世界の物語。
フィリップ・K・ディックの『高い城の男』のような世界といえば分かりやすいでしょうか。

ただ、舞台設定がそうというだけで、主題は架空戦記ものではなくて、ジャンル的にはミステリーとなります。小道具、ガジェットなどは近未来SF風であるものの、ベースはミステリー、元恋人の死の真相を探るべく、日本帝国軍の万年大尉と特高の切れ者がコンビを組んで、事件の謎を追いかけるというお話です。
登場人物が、天才的なゲーマーや、マッドサイエンティスト、狂信的なテロリスト、偏執的な特高たちとかなりエキセントリックですが、本筋のミステリーは割合たオーソドックスで楽しめます。

ただ、一つ気になるのは、登場する日本人達が揃いも揃って変態的というか嗜虐性の強いサディストもしくは倫理観の欠落したような人物ばかりというところ。
一昔前のナチスへの描かれ方と同じといえばそれまでなのかも知れないけれど、妙に非人間的というかレイシストで無能でプライドだけが高くて人間的におかしな人々に描かれているのが気になります。
特に天皇に関しては盲目的に従い、その批判に対しては反射的に殺人を犯すし、殺人を娯楽として楽しむだなんて、何処の中韓のプロパガンダかと思うような恐ろしさです。
これが、一旦ひねった風刺で、史実では日本に勝ったアメリカを皮肉っているとしたら、それはそれで気が利いているのですが、占領されたアメリカ人のレジスタンスは、テロリストであると同時に自由と理想を掲げるレジスタンスとして描かれているので、その辺りだけが少し???となります。

ともあれ、そういうところを除けば、一風変わったミステリーとして楽しめます。下巻で全体評価は決めますが、上巻はなかなか面白かったです。
※カバーイラストの巨大ロボットは、単に巨大ロボットというだけで、ほとんど活躍しません。あしからず。

 

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン 上 (ハヤカワ文庫SF)

 

 

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

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