『書楼弔堂 破暁』 京極夏彦著

御一新から二十年と少し。
まだ江戸の地続きの明治だった頃、東京の郊外、周りには田んぼと畑しかないような鄙びた土地に、3階建ての巨大な本屋があった。
まるで、灯台のような不思議な形で、窓というものがなく、知らない人は決して本屋とは思えないその本屋の入り口には、ただ一文字「弔」という文字が墨痕淋漓と認められていた。
書楼弔堂。
それがこの本屋の名前だった。

飾り気のない、白一色の着物をきた店主は言う。
ここは、本の墓場である、と。
本は記号であり、過去であり、そこに書かれた何かを浮かび上がらせる墓石のようなものである、と。
また、彼はそこにある夥しい本は、自らのために集めているものだともいう。自分にとっての生涯ただ一冊の本に出会うために、ひたすら集めて読んで売っているのだと。
不可思議な男であるが、読書好きの人間であれば彼のいうことはストンと腑に落ちる筈だ。素晴らしい本に出会ったと思いつつ、もっと何かいい本がないか、運命の一冊がないかと次々に本を読む気持ち、また一冊一冊の本(場合によっては絵や新聞でもいい)を再読してもしなくても大事に思う気持ちもとてもよくわかる筈である。

そんな彼のもとには、噂を聞きつけたり、狂言回しとしての主人公・高遠の手によって、さまざまな悩みを持つ人々が訪れる。
彼らの悩みを、彼は本を通して解決する。
その手法、語り口は、同氏の「京極堂シリーズ」の中禅寺秋彦を思い起こさせる。真っ黒な装束にて、語り口で憑き物を落とすあの男の裏返しのような人物が本編の主人公で、このあたりは、旧シリーズのファンであればニヤリとすること間違いない。
また、旧シリーズとのことでいえば、その京極堂シリーズや巷説シリーズの方々もこの作品には登場する。

そういう意味では、京極夏彦ファンにとっては、本作の分厚さも含めて買いの一冊なのは間違いない。
しかし、ファンとしては、それでもやはり京極堂シリーズの最新作、もしくは薔薇十字探偵社のシリーズを読みたくもあるのだがどうだろうか。

 

 

文庫版 書楼弔堂 破暁 (集英社文庫)

文庫版 書楼弔堂 破暁 (集英社文庫)

 
書楼弔堂 破暁

書楼弔堂 破暁